みなさんはこわい夢を見たことがありますか? ぼくはこの1週間、ずっとおなじようなこわい夢にうなされています。


 塾からの帰り道、コンビニの角を曲がるとちょっとうすぐらい道に出る。電話ボックスを通り過ぎて100mほど先の街灯の角を曲がるともう家が見えるのだが、ここできまって黒い影法師のような化け物に声をかけられる。


「おまえ、うそつきだな!!」

嘘つきの舌を抜く者


「うそなんかついてないよ。」ぼくがそう言うと、「おまえ、今日、宿題忘れた人は立ちなさいって先生に言われたのに立たなかったろ!」 などと言ってくる。最初の日は給食のグリンピースをそっとティッシュに包んで捨てたことを言われた。その次の日は、算数の答え合わせの時間に×なのに○をつけたことがばれていた。化け物はその日にぼくがついたうそやズルがみんな分かっているらしい。

 「うるさいなあ。」 ぼくがそういって駆け出すと化け物は世にも恐ろしい低い声で「うそつきの舌はぬかねばならん。」と言いながら追いかけてくる。ぼくは必死で逃げるのだが、あっという間に追いつかれ、冷たい手であごをつかまれる。「うそを言うのはこの舌か!」 ペンチのようなものが口の中に入ってくる。「わ~、助けてくれ~。もうだめだ~!」と思ったところで目が覚める。・・・・だからぼくはこのごろできるだけうそをつかないようにしている。でも化け物はほんのちょっとのうそでも見逃さない。それで3日前から、ぼくは電話ボックスに逃げ込み、お母さんに「助けて!迎えに来て!」と電話することにした。でもお母さんは「なにバカなこと言ってるの。そこからなら、あとちょっとなんだから早く帰ってきなさい。」と言って迎えに来てくれない。

 

 「あ~あ。今日もあの夢見るんだろか・・・。」そう思いながらいつものコンビニの角を曲がる。あの化け物がいる。「あれっ? もう夢なのかな?」 現実と夢の区別がつかなくなっている。・・・「おまえ、うそつきだな!!」 ぼくは黙って走り出す。化け物が追いかけてくる。ぼくは捕まる寸前に電話ボックスに逃げ込む。「お母さん、迎えに来て!」 するとどうだろう。今日は電話口から「しょうがないわねえ。じゃあそこで待ってるのよ。」という声が聞こえた。ぼくは目をつぶってしゃがみこみ、お母さんを待った。5分ほどしてお母さんの声がした。ぼくは思わずお母さんに抱きついた。「どうしたの?へんな子ねえ・・。」お母さんはそう言いながらぼくの肩を抱いてくれた。そっとうしろを見ると、あの化け物が電柱の陰に隠れている。そして「ちぇっ、夢と違うじゃねえか。」という悔しそうな声が聞こえた。


 その日以来ぼくはあのこわい夢を見なくなった。お母さんは「あなた、このごろお利口さんになったわね。」と言ってぼくをほめてくれる。そりゃあそうだ。ぼくはいまでもウソやズルはなしで生活しているんだから・・・・。